パン作りを手伝おうと、8時に起きパン小屋に行ってみると、Oさんが朝からせっせとパンを作っていた。まず洗い物をして、焼きあがったパンをケースから取り出す作業、パンの包装などを手伝った。今日も熊本の方まで材料調達に行くとの事で、Oさんに乗せてもらう事にした。
2日も御世話になった、オーナーと元大工のおっちゃんに別れを告げ、OさんとH君の乗る車に乗った。熊本に着きOさんとH君とはここでお別れになった。
「また来なさい。」
Oさんはポツリと言い、握手をしてくれた。それに続きOさんの後ろでH君は、
「こんな風に会ったのも、何かの縁だから。お互い頑張ろう。」
と言ってきた。
前にも書いたが、Oさんはホームレスをしていた時期があり、流れ流れて阿蘇に着き、オーナーと出会い、元大工のおっちゃんも加わりログハウスを建てて、パン作りを始めた。僕はOさんの車にヒッチハイクで乗せてもらい、色々な経験ができた。Oさんが阿蘇に辿りつかなければ、僕はこの南阿蘇のログハウスを知ることがなかった。考えると不思議な事だ。
OさんとH君に礼を言い別れた。熊本城も見ようかと思っていたが、時間的余裕を考えると、先を急いだ方がいい事に気が付く。そこで、僕は熊本を素通りしてヒッチハイクをする事にした。今日は長崎まで行ってやる。
すぐにカップルの乗った車が乗せてくれた。昼ご飯にとサンドイッチとおにぎり、そしてポカリを買ってくれた。Oさんがくれたパンを一つそのカップルにあげた。そのカップルはそのパンを見て、南阿蘇は家が近いので今度買いに行ってみると言っていた。ちょっと、ログハウスの人達に恩返しができたかなと思ったりする。そのカップルには高速の料金所で降ろしてもらった。
続けて佐賀まで行こうとヒッチハイクを始めると、十分程で1台の出張帰りのおっちゃんが乗せてくれた。このおっちゃんとはなぜか生物学的な話で盛り上がり、気の合ったこのおっちゃんは、佐賀に行く途中で行きつけの札幌ラーメン屋で奢ってくれた。うんうん、美味しい。おっちゃんに長距離乗せてもらい、佐賀市内で降ろしてもらった。
今日はよく距離進んでいる。一休みという事で、降ろしてもらった道路に座り込み、さっきカップルからもらったサンドイッチをほうばる。何だか、恥じらいとかがなくなってきているような気がする。よく道端で立ちションするし。ヒッチハイクをしている時に、僕を見て笑っている若いやつらもいて、最初はむかついていたが、今や何ともなくなってきた。図太くなってきたのか。まっ、これも成長の一つだろう。いちいち細かい事を気にしていたら、こんな旅はできないし。
かなり満腹になり、長崎を目指しヒッチハイクを再開。十五分ほどすると、僕より少し年上に見える兄ちゃんが止まってくれた。その兄ちゃんは自衛隊に入っていて、今日は休みで佐賀の方に遊びに行って、その帰りだという。長崎の手前にある自衛隊の寮があるので、そこまで乗せてもらえる事になった。話を聞いてみると、その兄ちゃんは三月いっぱいで自衛隊をやめるという。自衛隊は公務員だから、頑張っている人間とあまりまじめにやってない人間でも給料は同じという事、そして、しょうもないやつが出世していくのに彼は嫌気が指してきてしまったと言っていた。まだ次の職は決めていないらしい。長崎自衛隊御用達の居酒屋が今日休みで、もし休みでなかったら、連れて行ってくれたらしい。残念。しかし、自衛隊が集まる居酒屋なんていったら、相当飲みまくるに違いない。ある意味助かったのかもしれない。
酒はそこそこ飲める。でも、一気で焼酎などを飲んでいくと、グルグル回ってきて、最後には喉に手を突っこみゲーゲー吐いて、フラフラで横たわり寝てしまう。本当に危ない飲み方だった。大学生時代、高校の時のバスケ部のメンバーでキャンプなどがあった時はこんな事になっていた。次の日の朝も原付に乗って帰る時、原付に乗りながら路上に吐いた事もあった。ああなると、もう酒は一生飲みたくないと思う。うっ、思い出しただけでも気持ちが悪い・・・。最近はそんな無茶をしなくなったが、やはり楽しく適量に飲むのが一番。アルコールは程々に。
その自衛隊の兄ちゃんには寮の近くの国道で降ろしてもらった。またヒッチハイクを始める。五分程で五十歳前後の夫婦が止まってくれた。その夫婦には子供がいて、僕のちょい上との事。その子の話や、親の気持ちなどを話してくれた。帰ったら少し親孝行でもしてあげるかと考えさせられる。
その夫婦には長崎で降ろしてもらった。もう暗くなってきている。今日はとりあえず、日本三大夜景の一つである、長崎の稲佐山公園展望台に行こうと思っていた。よく何台も乗り継いで長崎まで来たもんだ。
国道でビュンビュン車が走っている道だったので、後ろに車が止まれるスペースがある所でヒッチハイクを再開。暗くなってきているという事もあり、なかなか車は止まってくれない。20分くらい粘っていると、一台の乗用車が止まってくれた。中には気の良さそうな、お兄さんが乗っていた。CDを買いに行った帰りで、僕が
「稲佐山公園展望台を目指しているんです。」
と言うと、
「暇だから連れて行ってあげるよ。」
と言ってくれた。ホントありがたい。この気の良さそうなお兄さんは名前をWさんといって、神奈川県に住んでいた事もあったらしく、標準語で話しかけてくれた。顔と雰囲気はELTのギターを弾いている人に似ている。ホントいい人という感じである。
稲佐山公園に着き、ロープウェーに乗り展望台へと登っていった。1千万ドルの夜景というらしい。この呼び方はよくわからんが、とにかく展望台から見る夜景は本当に綺麗だった。カップルが多かったが。これで、日本三大夜景の横浜、長崎の二つは見た。あと残すは函館だ。この年の夏に僕は北海道をヒッチハイクで廻るが、その時に函館の夜景も見ることができた。やろうと思ったら何だってできるもんだ。
夜景を見た後に、長崎名物の一口餃子のお店で、Wさんにご馳走になってしまった。うまい。普通の餃子の半分くらいの大きさで、パクパク食べれてしまう。ありがたや。
泊まるところも決めていない貧乏旅行をしていると言うと、家に泊めてもらえる事になった。ありがたや~、ありがたや~。Wさんは奥さんと最近離婚をして、今は一人暮らしには少し大きい部屋のマンションで一人暮らしをしていた。こんなに温厚な人の、どこが気に入らなかったのだろう。家に着き、南阿蘇のOさんにもらったパンを二人で食べた。これも美味しい。手作りのパンという感じでモチモチだった。Wさんも、
「こんなに美味しいパン久しぶりに食べた気がするよ。」
と言ってくれ、あの南阿蘇のログハウスの人たちが褒められているのを聞くと嬉しくなった。
Wさんの趣味であるホームシアターで、Wさんお勧め映画であるリュック・ベッソン監督の『グランブルー』を見た。迫力満点で綺麗な海の映像が多いこの作品を僕も好きになった。これから好きな映画はと言われたら、
「色々あるけど、『グランブルー』とか良いよね。」とか言ってみようと思った。ちょっと大人っぽくない?
映画を見終わって、また室内の温かい布団で寝ることができた。今日も多くのいい人達に出会った。


