坊主頭のN君が追試の試験を受けるため、H君の家を出て行く音で目が覚めた。その後朝飯をご馳走になり、H君の家を朝のうちにを出る。家を出る間際、H君は僕に野菜ジュースとクッキーをビニール袋に入れ、手渡してくれた。ホントありがとう。世話になりっぱなしだった。
僕はH君に礼を言い、車通りの多い道路へ向かった。ついにこれから、頼るあてのない旅になるのである。僕はガイドブックなど一切持ってきておらず、別府、桜島、阿蘇、長崎という行ってみたいとこだけの目星をつけていた。とりあえずは大分県別府を目指す。
H君の家から少し歩き、大通りに出る。三車線の太い道路の脇に立ち、親指をビッと上に立て、初めてのヒッチハイクを試みる。しかし、三十分程待ってみたが、車は一向に止まる気配がなく、太い道路ということもあり、猛スピードでビュンビュン通り過ぎていった。ここではダメだと思った。次にドンキホーテの駐車場に止まっている車を探すが、雨のため客も少ない。さらに、遠くまで行く車は見つかりそうもなかった。そりゃ、そうだよね。ドンキにわざわざ遠くからくる人はいないか。初のヒッチハイクという事もあり、僕はどうもコツがわからなかった。だが、このような都会で乗せてくれる車を見つけるのが困難な事は、その時の僕にもわかった。もう少し田舎へ行ってみよう。
僕は箱崎から、九州の入り口の小倉へ行き、そこから少し南にある宇佐という駅で電車を降りる事にした。
宇佐の駅を降り、小腹の減った僕は、旅の準備で買っておいたカップラーメンを食べるため、そこらにいる人に声をかけ、お湯を借りようと思った。しかし、人っ子一人見当たらない。替わりに青看板を見つけ、別府の方向がわかった。どれ、田舎に来た事だし、腹は減ったが試しにヒッチハイクをしてみようか。道端にバックパックを置き。僕はヒッチハイクを始めた。車が来た。止まるかな。運転手がこちらを見てくる。車がスピードを緩める。止まるか?止まるか?止まるのか~~~~~~!?通り過ぎた。まあ、一台目からうまくいくわけないか。だが、その時僕はこのヒッチハイクの旅、なんとかなるような気がした。さっきの車、乗せてはくれなかったが、スピードを緩めてくれたし、ドライバーのおばちゃんは僕を見ながら「ごめんね~。」という表情をしていた。箱崎の太い道路でヒッチハイクをした時とは明らかに違った。
それから三十分程が経ち、台数は少ないが、数台の車が僕の横を通りすぎた。僕はそこを動かなかった。なんとしても、ヒッチハイクがしたかった。今回ぼくは電車の旅に来た訳じゃないのだから。その時、軽トラックが遠くに見えた。僕は親指を立て、軽トラックをジッと見つめた。僕に近くづいてくると軽トラのスピードが緩まる。ドライバーのおっちゃんと目が合った。しかし、軽トラは僕の横を通りすぎてしまった。はあ、甘くないな。僕はそう思い、ため息をついた。プップ~!その時、後ろからクラクションがなった。通り過ぎたと思った軽トラは少し先でハザードを点滅させ止まっていた。僕が荷物を持って走っていくと、おっちゃんは僕に声をかけた。
「どこに行きたいんだい?」
「別府に行こうと思ってるんですが。」
「別府に帰るとこだから乗っていきな。」
ついに僕はヒッチハイクに成功した。あの、車が後ろに止まっていた事に気がついた時の喜び、それは何とも言えないものだった。そのおっちゃんは五十歳くらいで作業服を着ていて、話し方の優しい人だった。車の中では、僕が大学生であること、東京から来た事(神奈川に住んでいるが、こういう時は東京と言った方がわかりやすい)など話をした。そして、九州の有名な場所を聞いた。おっちゃんによると、宮崎県の南の方に日南海岸という綺麗な海岸があるらしい。次の目的地ができた。話によると、ここ何年もヒッチハイクをしてる奴なんて見てなかったらしい。僕がヒッチハイクというものを知った、某バラエティ番組をやっていた時はちらほらヒッチハイカーを見たらしいが、今はぱったりと見る事がなくなったらしい。オッケー、オッケー。そうでなくちゃ。みんながやってる事をしてもつまらない。最近はヒッチハイカーがいないと聞いて、僕は俄然やる気が出てきた。そして、おっちゃんは僕を乗せた理由を言ってくれた。好青年に見えたからと。
「いや~、そうですか?」
なんて言ってポリポリ頭をかいた。でも、こう言われた事でヒッチハイクができる自信が少しついてきた(おだてられるとノルタイプ)。おっちゃんが言うには、やはり、乗せる方も慎重に選ぶらしい。ヒッチハイクが流行った数年前、ヒッチハイカーを乗せてあげたドライバーがナイフを突きつけられ、金を脅し取られた事件が起こったらしい。そう。ヒッチハイクで乗る人に不安があるように、乗せる方も不安はあるのである。
一時間半程で別府に着き、温泉街で下ろしてもらった。記念すべき最初のヒッチハイクで乗せてくれた人と言う事で、一緒に写真を撮ってもらい、礼を言っておっちゃんとは別れた。別府の駅の定食屋を見つけたので、カツ重を食べた。朝飯以来何も食べていなかったので、僕は夢中でカツ重をかきこんだ。飯を食べ終わると時間は四時。定食屋のおばちゃんに、別府の名所を聞くと、
「地獄巡りっていうのがあるけど、もう時間的には遅いよ。」
と言われた。地獄巡りとは別府にある八ヶ所の珍しい熱湯を見て廻ることを言い、別府観光の目玉である。僕は明日地獄巡りをすることにして、早めではあるが寝床探しをする事にした。とりあえず数打とうと思った僕は、近くにあった八百屋に入っていき、
「東京から旅をしている学生なんですが、寝袋を持っているので、お店の少しのスペースで寝かせてもらえませんか?」
今考えるとよくもまあ、あんな事を言ったものだなと思う。案の定、店のスペースには次の日に売り出す野菜が置かれてしまうということで断られた。しかし、自分的にはかなり好感触だった。その八百屋を経営していた老夫婦は、
「本当にごめんね。」
と言って、僕を見送ってくれた。八百屋をしてる人には悪い人はいないな、と勝手に思い込んだ僕は、他の八百屋を探して歩いた。なぜ僕がこの時八百屋にこだわったのかはよく自分でもわからない。少し歩くと商店街に入った。お、八百屋見っけ。そして、またあのフレーズを言った。
「東京から旅をしている学生なんですが・・・。」
夫婦で八百屋を経営している、気の良さそうな二人が顔を見合わせた。そして、
「お店は閉めちゃうから、家に泊まりなさい。」
とおばちゃんが笑顔で言ってくれた。なんと、二件目にして僕みたいな見ず知らずの汚い格好をした男を泊めてくれる家を見つけてしまった。正直驚いてしまった。思わず「えっ。」と声を出してしまった。この事で僕は一気に別府、いや九州の人たちはいい人が多いと思った。何はともあれ、今日の寝床を見つけた事で、僕はほっとした。店が終わるまで時間があると言うので、僕は図々しくもバックパックを店に預けて、別府の街を見て廻る事にした。
少し歩くと海が見えた。小さい船が多く停泊している。堤防に駆け上がり、海を見る。 曇っているせいもあり、地元湘南の海とさほど変わらない、青さの少ない海である。この海は晴れれば綺麗な青色に見えるのだろうか。
地元湘南の海は、正直あまり綺麗なものとは言えない。だが夏になるとなぜか、浜を埋め尽くすほどの海水浴客が来る。僕は夏の湘南の海はあまり好きではない。あの人とゴミの量。泳ぐ気も失せてしまう。湘南の海にいくならクラゲが大量発生した後の時期がいい。人も少ないし、そこそこ暖かい。江ノ島のテトラポットの上が僕のお気に入りの場所だ。テトラポットの上に座ると、180度海しか見えない。地球の丸さがわかる。でもその場所ちょっと磯臭い。さらに、テトラポットの上から落ちた人もいるらしく、危険な場所だから行かないように。お気に入りの場所に人が多く来たら、そこはお気に入りの場所じゃなくなっちゃうしね。
海を少し眺めた後、僕は八百屋のおばちゃんに教えてもらった砂風呂で有名な竹瓦温泉という所に行ってみた。760円と少し高かったが仕方がない。そこは、おばちゃんが砂をわざわざ汗水垂らして全身にかけてくれるのだ。そう考えたら安いもんだ。服を脱ぎタオル一丁でガラガラとドアを開けると、モワッとした熱気と共に随分と広い空間が現われた。ドアの近くにシャワーがある。砂風呂が終わった後に砂を落とすためにあるようだ。木で造られた階段を下りていくと、大きな砂場が見え、数人のおばちゃん達がタオルを肩にかけ、砂の上に寝転んでいる外人さんに砂をかけていた。休んでいたおばちゃんが「いらっしゃい。」といった表情でここに来なさいというジェスチャーをする。砂の上に寝転ぶと下の砂も結構熱い。おばちゃんはスコップで僕の上に砂をかけていく。外人さんに砂をかけ終わったおばちゃん達も、僕に砂をかけるのを手伝う。僕の体を砂が覆うと、心地よい砂の圧力が僕にかかっていた。そういえば、小さい時に海で友達に頼んで、体全体に砂をかけてもらって遊んだ事があったな。砂風呂の心地よい圧力の中、僕はそんな事をふと思い出した。誰もが海で一度はやってみた事があるんじゃないかな。ここの砂は勿論海とは違いかなり熱い。汗がどんどん出てくる。塩に包まれて蒸される魚の気持ちが少しわかったような気がする。今度、魚の蒸し焼きを食べる時は美味しく食べてあげよう。
僕は砂風呂の限界がきて、おばちゃんを呼ぶ。すると、おばちゃん達がどっこいしょという感じで僕の体の上にのった砂を取り除いていく。僕の体は徐々に軽くなっていき、熱さからも開放されていく。なるほど、この爽快感はいい。おばちゃん達に礼を言うと、
「若い子の裸が見れてよかった。」
と最後に僕の所に砂をかけに来たおばちゃんが冗談交じりにそう言って見送ってくれた。少しゾッとしながら僕は苦笑いをした。体についた砂を洗い流し、更衣室を挟んで反対側にある温泉に入る。これは良く考えたらこれはお得だった。砂風呂が終わった後に普通の温泉まで入れるのだから。別府に行ったら是非、竹瓦温泉に行ってみて欲しい。必ず満足いくはずだ。
八百屋の閉店時間まで、まだ少し時間があったので、コンビニに寄ってみる。そういえば今日は月曜日。少年ジャンプの発売日だ。僕は旅に来ているというのにコンビニでジャンプを立ち読みをした。その時僕は、人間浮世離れするのは難しいんものだなんて事をしみじみ思う。いやはや、ジャンプは偉大なり。ジャンプを読み終わり満足して、いつものように何も買わずにコンビニを出て、八百屋に向かった。社会人になった今でも、立ち読みは僕が好きな時間の一つである。
八百屋に着くとおじちゃんとおばちゃんはちょうど店閉まいをしていた。店を閉めると、八百屋の夫婦は車で5分程の自宅へ連れて行ってくれた。僕に部屋丸々一つ使わせてくれた。子供はもう結婚していて、家を出たそうで、この部屋は子供部屋だったそうだ。名前はOさんという。今はOさん夫婦と猫一匹で暮らしている。僕は晩御飯にすき焼きと、鯛の刺身をごちそうになった。今日は栄養抜群の晩御飯だ。本当に美味しかった。やっぱり家庭のご飯は美味しいね。晩御飯の後、Oさん夫婦は近くの温泉に連れて行ってくれた。美味しい飯を食べ、温泉三昧。最高の気分の良さだ。Oさん夫婦は二人共明るく、話をしていて楽しかった。まるで家族のようにしてくれた。なんていい人達に巡り会えたのだろう。Oさん夫婦とメールや住所を交換し、僕は部屋に戻り、暖かい布団に横になった。疲れていたのだろう。普段寝つきの悪い僕が、目をつむるとすぐに眠る事ができた。
Oさん夫婦(猫つき)。



コメント (1)
どうも、はじめまして。
こんな夜分遅くですが、失礼します。
僕は現在、北海道に住む大学1年生です。
今はちょうど管理人様がヒッチハイクをしたいと思ったころの時期でしょうか。
実は僕も来年の夏休みには「北海道一周・ヒッチハイクの旅」なんてのをしてみたいと夢膨らませ、最近は色々とヒッチハイク経験のある方からの情報や、記録、日記などを巡り、そのうちに、こちらにたどり着きました。
それにしても、今回の管理人様の旅日記からは、何か感じるものがあり、楽しく、共感しながら全文、読ませていただきました。
次回の日記の更新、楽しみにしてますので、よろしければ更新された時にでもメールでもいただけたらと思います。
厚かましい乱文、失礼しました;
投稿者: T | 2006年12月03日 02:43
日時: 2006年12月03日 02:43