この日、僕は朝7時半にM君に礼を言い家を出た。M君には本当に迷惑をかけた、久しぶりに会ったのに、ずっとテンションどん底の状態だった。今度地元神奈川に帰ってきたら礼をしなきゃな(未だこれといった礼をしてないような気もするが)。
M君は別れ際、少し笑いながら僕にこう言った。
「お前死ぬなよ。」
小学生、中学生などは、こんなことを夏休み前の終業式の日に冗談でよく言う。だが、この時M君が僕に言った言葉は、半分が冗談で、半分が本気だったような気がした。大丈夫。もう騙されたりしないしさ。
このままおめおめ帰ったら負け犬だ。負け犬なんてまっぴらごめんだね。ヒッチハイクの旅をやるって決めたんだから、絶対やってやる。
今日には九州に着ける。でも、僕は九州に行く前に行きたい所が二つあった。その一つが原爆ドームだ。まずは広島駅に行く事にした。広島駅で降り、路面電車を使い、原爆ドームまでいった。初めて原爆ドームの実物を見た。僕が生まれる前に原爆が落とされ多くの人が一瞬で死んだ。その事実は知っているが、この原爆ドームを見てもどうも実感は湧いてこなかった。今思うと僕は見る順番を間違っていた。近くにある広島平和記念資料館を先に見てから、原爆ドームを見るべきだった。近くの石碑にお供え物をしている老婆がいる。若者も多い。外国人も多い。近くのベンチでいちゃついているカップルなんてのもいた。日曜という事もあり、人は非常に多かった。
僕は原爆ドームを見た後、さっきも書いた広島平和記念資料館を見て廻った。記念館の中には多くの修学旅行の学生がいて、「すげー!」「うぉー!」などと騒いでいる。これが本当に不快だった。ここで、感じた事は多かったが、それを文章で書き表せる程、僕には文章力と表現力がない。これは一人一人が、実際に広島あるいは長崎平和記念資料館に行き、見て感じるべき事であると思う。ただ、これだけははっきりと言える。戦争はあってはいけない事だと。後に僕は東南アジアを旅した時にカンボジア、ベトナムに行った事で、その考えは決して間違ってないと一層核心が持てるようになった。
その後、僕はもう一つの行きたかった場所、日本三景の一つである、宮島を目指す。路面電車に再び乗り、宮島までの行き方を聞いたおばちゃんと話しながら、なんとかフェリー乗り場に着く事ができた。フェリー出発まで少し時間があったので、宮島名物もみじ饅頭のそれぞれ中身の違うものを2個買い、それをほおばりながら、フェリーに乗り込んだ。実はこのフェリー、青春18切符の乗車券で乗る事ができた。どうやらJRと提携しているらしい。ほんの数分のフェリーだったが、眺めはよかった。丁度夕暮れ時に着いたのもよかった。遠くに大きな鳥居が見える。
とりあえず鳥居を目指し、てくてく歩いていく。ここ宮島には鹿が我が物顔でうろうろしている。鹿の糞があちこちに散乱している。安全のため角を削られた鹿同士が、頭をぶつけて喧嘩をしている。
僕は修学旅行で鹿で有名な奈良公園に行った事があった。中学生の時の修学旅行で一回。さらに高校生の時の修学旅行でもう一回。ここで、「えっ、高校の修学旅行でまた京都・奈良に行ったの?」と思った人もいるかもしれない。そう、僕の高校の修学旅行は京都・奈良なのだった。普通、関東の高校の時の修学旅行と言えば、北海道、沖縄。私立高校になると、海外に行ったりしている高校も少なくないと思う。僕の高校も、一つ上の学年までは修学旅行は東北<まあどっちにせよちょっとしょぼいが>だった。だが、うちの高校には男子生徒の中で、代々脈々と受け継がれてきた東北修学旅行の裏目的があった。それは、のぞきである。僕よりも遥か先代のある男子生徒が見つけ出したその聖域と呼ばれる場所。そこからは女風呂が驚くほど見えてしまうのだそうだ。修学旅行の宿舎は毎年同じ所だった。代々多くの男子生徒がその「聖域」の恩恵に預かろうと足を運び、
「ありがたや、ありがたや~。」
と言ったそうだ。ところが、僕の一つ上の代でその聖域は、ある教師に侵略されてしまった。のぞきをしていた連中は長時間正座の刑を受けたらしい。そして、この伝統は上の代でぷっつりと途絶えてしまった。さらに、宿舎を変えれば済むものを、教師達は修学旅行の場所まで変更してしまったのだ。その事件が男子学生の間で広まるスピードと言ったら、光に近いものがあったかもしれない。とにかく、我々男子生徒はこの事件のあまりにも重い対応にがっくりと肩を落とした。このような、マヌケな歴史的背景を含み、僕達の学年は京都・奈良の修学旅行に行く事になった。僕を含めた多くの学生は中学で京都・奈良に行っていて、みな不安を持っていた。自由行動の日、僕達の班は大阪へ繰り出し、変な商店街でパチンコをした。班員の一人は隣に座っていた謎のおばちゃんの助言をたよりに、元手二千円で一万五千円近く儲けてしまった。その金で、美味しいお好み焼きやら、赤石焼きやらを食べたのを覚えている。
京都は今になってはとても見て廻りたい土地であるが、高校生の時の僕にとっては少し退屈な場所であった。寺を見てぼ~っと想いにふける。高校生の僕にはそんな事をして考える物事自体がなかったのかもしれない。みんなもそうだったでしょ。
話がかなり脱線してしまったが、言いたい事は修学旅行で見飽きた鹿に興味はないのである。どきなさい、鹿共。
数分歩くと鳥居に着いた。今日のこの時間は丁度干潮らしく、鳥居の下まで歩いて行く事ができた。苔の生えた地面にはしゃがんで何かをしている人達が点々としている。その中の一人に近づいて聞いてみると、アサリを取っているのだと言う。バケツには多くのアサリが入っていた。僕は水溜りを避けながら鳥居の下まで歩いた。でかい。鳥居の両側に付いた三本の脚は、一つ一つが一本の木からできている。海水のせいで塗料のはがれた所からは木目が見える。脚の部分は身の丈ほどまで苔がびっしりと生えている。満潮時にはここまで、水面が上がるのだろう。
日本三景なんてたいしたことないよ、なんて事を言う人がいる。だが、僕はそう思わなかった。オレンジ色の夕日をバックに、赤く、そして巨大な鳥居を見た。所々にある水溜りには、僕に向かって真っ直ぐ伸びている夕日が映っている。それは確かに美しかった。派手さのある景色ではないかもしれない。でも、それはいかにも日本的で、落ち着いた景色だった。
夕焼けの宮島。日本三景、三本勝負の先手を見事に勝ち取った。いつか、残りの日本三景もいつか自分の目で見て、この三本勝負の白黒をつけようと思った。そして、この年の夏休みに旅行に行く途中、松島を見に行った。とにかく行動に出てみるのが僕のモットーだ。
僕はあえて、観光に来ていた外国人に写真を撮ってもらおうと、乏しい英語で頼んだ。
「ク、クジューテークアフォト?」
白人のカップルは快く受け入れてくれて、夕日と鳥居をバックに写真を撮ってもらった。
「センキュー!」
と僕が礼を言うと、
「ノープロブレム」
とさすが欧米人というウィンクをしながらカメラを手渡してくれた。
まじめにやってきたかどうかは別として、何年も英語は勉強してきたはずなのに、なんでこんなにも僕は英語を話す事ができないのだろう。その時僕は、もっと英語を話せるようになりたいと思ったのを覚えている。
次に僕は厳島神社を見て廻った。全体的に赤く塗られた内装を見ると、時代劇の映画の中に入り込んだようだった。いつか満潮時に来てみたいと思った。そして、海の上に建っているこの神社を歩いてみたい。一部は修復工事のため入る事ができなかった。ご存知の方もいると思うが、台風が来るたびここ宮島はニュースに出る。海の上に建っているこの神社や鳥居は、台風の影響をもろに受けて、度々修復作業をしている。
ここ宮島では様々な特産品と呼ばれる物が売られている。まずはお馴染みもみじ饅頭。これは様々な種類の中身があり、チーズなんてのもあった。是非お試しを。そして、杓子がここ宮島では有名である。あの、ご飯をよそう時に使う杓子である。こんな変わり物土産も面白いかもしれない。僕は荷物になってしまうので買わなかったけど。さらに、他にも様々な土産があるので、是非宮島に行ったときは、気のいい人がやっているお土産屋を見つけて、なんか買っていくのもいいと思う。
さて、宮島を出た僕は九州を目指す。博多の近くにこれまた高校の友達のH君が、九州の大学に通うため一人暮らしをしていて、そこにお世話になる予定だった。時刻表を見るとH君が住んでいる博多手前の駅、箱崎には今日の夜十二時ぐらいに着くことになる。H君に到着時間をメールした。
ふと、電車の中の広告を見ると、青春18切符の広告があった。その広告には草原を背景に、こんなことが書いてあった。
「たんぽぽみたいに、旅に出た。」
少しその広告を眺め少し笑ってしまった。僕はまさにそれを実行していた。胸のあたりが少し熱くなった。絶対いい旅にしてやる。
箱崎の駅に着くとH君は待っててくれ、家まで歩きながら詐欺に遭った話で盛り上がった。僕はもう詐欺の事をネタにできていた。もう踏ん切りはついた。あんな詐欺の経験は俺の糧にしてやるよ。H君に詐欺の話をした時には、後の旅を楽しもうという気になっていた。
H君の家は片付いていて、宇多田ヒカルのTravelingのDVDを見ながら、かわいいな~なんて事を話していた。
今日は旅一日目より疲れなかったような気がする。一日目は、初めての事だらけで緊張しっぱなしだったのかもしれない。そういえば、いつの間にか本州を出ていた。せっかく生まれて初めて本州を出たのに。何か知らぬ間に九州に入っていて、少しあっけなかったが、とにかく僕は九州に上陸する事ができた。
この写真、広島の宮島へもみじ饅頭を食べながら船で移動中。右上に鳥居がある。



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ニンキブログ
投稿者: ニンキブログ | 2006年10月24日 15:54
日時: 2006年10月24日 15:54