H君に礼を言い、家を出たのは結局10時頃だった。まずい、少し寝坊をしてしまった。
箱崎の駅から青春18切符で電車に乗り込む。久しぶりの電車だ。今日は山口県の日本最大の鍾乳洞秋吉台を目指す。
しかし。。。秋吉台に着いたのは、電車とバスを乗り継ぎ夕方5時頃になった。思った以上に時間がかかってしまった。今日の泊まるところはどうしようという一抹の不安を抱えながらも、とにかく日本一の秋吉台鍾乳洞を見ることにした。
大きく口を開けた洞窟に入ると、そこには苦労して来ただけの甲斐あった風景が広がっていた。こんなものが長い年月を経てできたのかと考えると、僕は地球のすさまじいパワーに圧倒されていた。全長1Km程もある秋吉台の鍾乳洞は、その長さを忘れるほど様々な色、形の鍾乳洞があり飽きる事がなく本当に見ごたえがあった。うんうん、来て良かった。しかし、全部見終わる頃には6時頃になっており、空は既に薄暗い。
とりあえず駅に戻るバス停に行くと、何ともう既にバスの最終便は終わっていた(午後6時頃。何でこんなに早く最終便が終わってしまうのか。)。どうしよう。ふとバス停のそばで井戸端会議をしているおばちゃん、おじちゃん集団がいた。バスがなくなってしまった事を相談すると、その中のおじちゃんが駅の近くのパチンコ屋に行くというので、乗せてもらえることになった。ホッ、助かった。
駅近くでおっちゃんに降ろしてもらい、また電車に乗り込む。電車の時刻表を見てみるが、高校のバスケ部で一緒だった、座高が1M以上あるM君が住んでいる大阪まではとてもじゃないが、今日のうちには着かない。まあまたどこかの交番にでも泊まればよいとその時は考えていた。
少し電車の中で寝ていると、外は既に真っ暗になっていた。広島を過ぎ、ある駅で降りてみる。よし。あったあった、交番。今日も交番に泊めてもらおう。
「すみません、学生で旅行している者なんですが、寝袋あるので今日泊めさせてもらえないでしょうか。」
あれっ。反応が薄い。
「悪いね。そういう事はできないんだ。」
あっさり、断られてしまった。うそ~。そんな。。。まずい事になってきた。もう夜も更けており、終電も近くなってきた。次の日には親父の単身赴任している、静岡に着いていたかったので、僕はその日泊まれるところを探しながら行けるところまで行くことにした。
電車は偏狭の地をどんどん進む。それにしても暗い。電灯があまり見当たらないのだ。時間が遅くなるとともに、泊まるとこがない事に不安が大きくなってきた。その時は、もう既に0時近くだった。
ふと電車からコンビニの光が目に入った。コンビニからあまり離れず電車もある駅で停車した。ここで降りるしかない。僕はそう思った。最悪、コンビニで何か暖かいものでも食べる事はできる。僕は意を決してその駅で電車を降りることにした。
残念ながらこの駅には交番はなかった。改札を出ると、そこには壁はないが、屋根がついているベンチスペースがあった。本当に最悪はそこで朝まで寝袋で耐えるしかないと思った。しかしそれは何としても避けたい。3月13日の夜はまだとても寒かった。どうする。どうする。とりあえず腹を膨らませて、暖かくしようと電車から見えたコンビニへ行き、カップラーメン、パン、おにぎりをコンビニ前で食べた。もっとゆっくり食べて時間を少しでも稼げばよかったと後悔した程、僕はむさぼる様にカップラーメン、パンそしておにぎりを食べてしまった。
さあ、本当にどうしよう。コンビニ以外ほとんど光がない。とりあえず少し歩いてみると、何か事務所のようなところから灯りが漏れている。ふらふらと近寄ってみるとそこはタクシーの事務所だった。中には男が一人見える。それにその時の僕にはとても魅力的だったストーブという素晴らしい現代機器がその事務所に置いてあった。僕は外の寒さに耐え切れずその事務所に入っていった。
「すみません。学生で貧乏旅行していたのですが、電車が終わってしまい、泊まるところが見つからなくて。。。ここで少し暖まらせてもらってもいいですか。」
中にいたのは30代後半くらいのタクシードライバーだった。突然入ってきた僕に少し驚いた様子だったが、ニコッと笑い、
「そうか、そうか。この事務所2時までだけど、それまでならここにいていいよ。」
快く僕が事務所にいる事をそのタクシードライバーは了承してくれた。お茶も出してくれ、僕は今回出た旅の話をした。詐欺に遭った話をした時は、
「もしだ。君がその詐欺に会わずに、すぐ先の目的地に進んでいたら、大きな事故に遭っていたかもしれないんだよ。プラス思考に考えなきゃな。」
とそのタクシードライバーはニコっと笑いながら言ってくれた。確かに。僕は大阪で詐欺にあった次の日は、疲れとその詐欺のショックから立ち直る事ができずに、大阪に住んでいて、高校バスケ部で一緒だったM君の家でもう一泊させてもらい寝込んでいた。
当初の予定から1日旅のスケジュールが遅くなったのだ。九州に入ってからは良い人に出会える事ができご飯を食べさせてもらったり、家にも泊めさせてもらった。行きたい場所にも行くことができ、非常に充実した日々を過ごす事ができた。ヒッチハイクでの旅は、偶然その場所を通りがかった人に乗せてもらうのだから、もし詐欺に遭わず、M君の家で寝込んだ一日がなかったら、今回の旅は全く違っていたものになっていた事は間違いない。このタクシードライバーが言うように大きな事故に遭っていた可能性だってある。そうだ、プラスに考えよう。
事務所が閉まる2時が近づいてきた。僕はあと4時間くらいすれば電車も動くだろうから、駅の改札近くのベンチで何とか寒さを凌ぎながら日記でも書こうと腹をくくっていた。事務所を閉める用意をしながら、そのタクシードライバーは僕にこう言ってきた。
「電車が動くまで駅にいるのは大変だろう。となり駅の近くに漫画喫茶があるから、そこで朝までいればどうかな。その漫画喫茶までならタダで連れて行ってあげるよ。でも、そこまで連れていくには守ってもらいたい条件がある。」
そう言うとタクシードライバーは少しまじめな顔になった。僕は黙って頷くと、
「事務所を閉めてから、君を漫画喫茶まで乗せて行く途中に、ある女の人を迎えに行く。実はそれは俺の不倫相手なんだ。それで、その彼女が乗ってきたら、ある話題は絶対に避けて欲しい。一つは家庭の話題、もう一つは子供の話題だ。そういった話をすると本当に雰囲気が悪くなるから、これだけは守ってくれ。まっ、普通にしてくれればいいからさ。」
最後はまたニコっと笑い僕の肩をポンと叩いた。
事務所を出て、僕は車の後部座席に乗せてもらった。数分するとそのタクシードライバーは僕の方をちらっと見て、
「もうすぐ彼女を乗せるから。」
と言って。タクシーはある所で止まった。僕は
「わかりました。」
と頷きながら言ったが、少し緊張してきた。それと同時にどんな女の人なのか興味が沸いてきた。このタクシードライバーの人は大体30代後半、ビジュアル的には普通だが、話が非常に面白い。相手の女の人は30過ぎくらいの独身女性だろうか。何てことを想像していると、車の助手席のドアをコンコンと叩く音がした。ドアが開くと僕が見た感じでは20代半ばから後半くらいの可愛らしい女の人が車に乗ってきた。いやいや、本当に綺麗で可愛らしい女の人だった。タクシードライバーが僕の事を紹介すると、優しく僕にも話しをかけてくれ、
「へ~、すごいねヒッチハイクで旅だなんて。」
何て言われ少し照れてしまった。不倫中の二人は非常に自然に話しをしていた。何か不思議な気分だった。車内ではもちろん家庭の話題と、子供の話題は避けて話をした。本当にすごい現場を見てしまったものだ。社会勉強させて頂きました。
少し経って漫画喫茶の前で降ろしてもらった。お礼を言うと、不倫中の2人も笑顔で返してくれ、彼らは走り去っていった。
いやいや、助かった。何とか野宿をせずに済んだ。すごい現場に居合わせる事もできたし。
店に入ってみると間違って漫画喫茶ではなく、同じ建物のカラオケに入ってしまったが、もう面倒臭いのでカラオケBoxの部屋に入る事にした。大荷物を持って、明らかにカラオケをしてないと店員もわかっているだろうが、そんな事には構っていられない。朝の7時まで980円。僕は店員の不振な顔には目もくれず部屋に入った。部屋を暗くして、寝袋を出して、横になる。どうせだから、少し歌ってやろう。僕はカラオケが結構好きだが、一人で歌ったのは始めてだった。疲れていたのもあったが、3曲目で飽きてしまい、すぐにやめて寝ることにした。カラオケ一人は寂しいもんだ。
こうして、何とかこの日も僕はも暖かい所で寝る事ができたのだった。


